面会

 一月のある日母の入院しているS病院へ面会に行った。母にとッて世紀末は大変な年だった。2回も骨折し、精神的にも参っていたと思う。病院のスタッフや 医師のおかげで元気になってきた。その母も今年、89歳になる。私は母に似ていると言われるのがつい最近までいやだった。それが近頃私の思いが変化した。 笑顔が似合う人だな、と病院で会うたび感じるようになった。人に聞くところによると、母は感性豊かな人であると。でも自分を表現できず殻にに閉じこもった ままで88年間すごしてきた。うつ病をわずらい、ここ30年間は内面的に大変だったと思う。その母のDNAを引き継いでいる私は自由に表現しながら60年 間を過ごしてきた。表現しない母が一つだけ話をしてくれることがある。それは12歳のとき遇った関東大震災の体験談だ。克明に被害の状況を。私には映像が 浮かんで、その当時の様子が想像できる。母はその時の衝撃を今も背負っているのだろうか。もちろんビデオに記録しておいた。母の語ってくれた貴重な記録と して保存しておくつもりだ。母を理解するのに60年もかかった。長生きしてくれて良かったと思う。私も今年61歳。母にオレだれか判るかと聞いた。省三、 私の息子や、と笑顔で言った。

2001/1/29