空景の大津

 4月10日、久しぶりの空撮の仕事、視界はまずまず、ドアーを取り払ったヘリ350は身軽そうだ。撮影の機材を防震装 置に取り付け、京都東山の臨時ヘリポートをテイクオフ、小川パイロットと私とVEの石田君を乗せたヘリは3分程で大津上空、眼下に広がる大津市街と琵琶 湖、少しへイズがかかっているが、撮影には支障なし、ドアーをはずしたヘリの視界は最高だ、高度を300メートルにさげてもらう、桜の疎水と三井寺が春を 謳歌している。あの秀吉ですらこんな豪華な花見はできなかったであろう。優越感に浸りながらカメラを回しつずける。開発が進む大津市の北部やまだ自然の残 る雄琴から堅田へは水面すれすれの超低空で撮影。琵琶湖大橋をロングで、ヘリの真下には大住宅街と発展した堅田、真野地区がまるでアメーバのように触手広 げているように見える。そしてヘリは伊香立を過ぎ葛川谷へと向かう。比良山系と北山に挟まれたV字渓谷が美しい曲線を描いている。ヘリは谷にそい飛行す る、山裾と谷の間の僅かの土地に集落が、人はなぜこんな厳しいところに営みを始めたのだろうか。ビデオカメラのモノクロファインダーが時を止める。小説家 でパイロットのサン・テクジュベリだったらこの風景をどう表現したであろう。まるで箱庭を見ているようだ。嘘のようにエンジン音が聞こえてこない。まるで タイムマシーンにでも乗って時代をさかのぼっているようだ。ヘリは武奈ケ岳山頂を一回りそして大津へ向かう、浜大津から膳所方面へ。急にエンジン音そして カラーの世界へ、コンクリートと石の湖岸そして人工の砂浜、葦1本ない不自然な風景が私を現実へ引き戻してくれる。ファインダーをのぞく、モノクロの世界 だ。でもエンジン音とパタパタとローターの音が私の耳にひときは高く飛び込んできた。

2001/6/18